絵の具そのものを楽しむ
大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、永瀬さんの油彩の作品です。
左の作品は廃墟の写真を参考にしながら制作されています。マチエール材という、細かい砂利の様なものを絵の具に混ぜザラザラとした質感を出しています。この素材が永瀬さんの作風にとてもマッチしており、廃墟の持つ退廃感や寂寥感、終わりを意識させる様な雰囲気を見事に表現されていますね。絵の具そのものを楽しんで使われているのが描かれたものから伝わってきます。壁の色味に注目してみると、ただ灰色を塗り重ねるのではなく、所々でピンクや青色、黄色といった有彩色も取り入れられています。それらの色はかつては生きていた建物の姿を見る人に思い起こさせます。死とは終わりではなく、そこから生前の姿を思い起こさせたりしてくれる想像の入り口にもなっているのだと、こちらの作品を拝見していると思います。
実は絵の具だけはなく、クレヨンも随所に使用されています。元々、油性のクレヨンと油絵の具は相性が良く、小学生クラスでも仕上げにクレヨンを使ったりします。今回はマチエール材で絵の具自体がザラザラしているので、クレヨンのざらっとした書き味とも上手く馴染んでいますね!
右の作品は永瀬さんのご友人が描かれています。中心の方の退院時の写真を参考に、お祝いの気持ちを込めて描かれていました。こちらもマチエール材を練り込み、デコボコした質感を加えています。それにより、絵の具を重ねていくと少し掠れたような筆跡になっていき、全体的に柔らかい印象になっています。
以前の作品もそうでしたが、永瀬さんは作品の雰囲気に合った肌の色を作るのがいつもお上手ですね。同じ顔の中でも、赤みや黄みを使い変化を作り、首のあたりは影になる為少し青を混ぜた色で描かれています。服の色もよく見てみると下地の色が透けていたり、絵の具の厚みも変化があったりとこちらも絵の具の質感そのものが見て楽しめます。
背景には海が広がり、柔らかな黄いの空の中にはポツンと島の影が見えています。これは友達との思い出の風景だそうで、見ればすぐにあの場所だ!と分かるそうです。自分の中の思い出をモチーフに取り入れる事で、より一層作品に愛情を持って取り組めますね。


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