湿度と乾き
永瀬 油彩
大竹です。今回ご紹介させて頂くのは永瀬さんの油彩画です。
左の作品は、実は片手の平で持てるほど小さなキャンバスに描かれていますが、アトリエに置かれている間も強い存在感を持っておりました。背景の思い色を背負い、何かを考えているのか、それとも画面外にある何かを見つめているのでしょうか。モデルとなった女性よりも、より痩せてくたびれた老婆をイメージして描かれているそうです。所々に輪郭には黒が入れられており、よりこの人物の形、存在を際立たせます。画面全体の色合いからは重くじっとりとした湿度が感じますね。ジッと見ていると、自分が脳の奥底に持っていた悩みが掘り起こされ、画面の女性と一緒に思案してしまう様な、ある種引きずりこむ様な印象を持っています。
右の作品は縦長のキャンバスで制作されています。こちらもまた輪郭線が印象的ですね。柔らかい肉体とは対照的に、背景は乾き、腐食した様な質感となっています。肌の色も、生きていて血が通っているはずなのに、どこか冷たい印象を与えます。何度も色を塗り重ね、時には全く違う色に作り変えることもありました。そうして一度壊して組み替える事で、より自分のイメージする完成像に近づける事が出来るのでしょう。製作中、どこを弄ってもうまくいかない時は、一度大胆に塗りつぶしてやり直してみるのも良いかもしれませんね。
両作品とも絵の具にマチエール材を混ぜ、でこぼことした壁の様な質感を下地で作っています。キャンバスの凹凸によって鑑賞者には輪郭が歪んで見え、まるで画面の中の人物の心情がにじみ出ているかの様です。
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