積み重ねの岩壁
長沼 油彩
左上の手前に見切れている崖はパレットナイフでたっぷりと絵の具を乗せてマチエールを効かせ、ヤスリのようにざらざらとしています。この部分がほぼ目の前にあるかのように感じられるので、より奥に聳え立つ岩壁が大きく、迫力あるものに見える構図となっています。真ん中に立つ観光客と比較すると、よりその大きさが実感できるでしょう。
何百、何千、ひょっとしたら何万年の積み重ねからできた地層の色合いを、油彩の奥行きある風合いで表現しています。何層も色を重ね、深みと重みを出す事ができる油絵ならではの色合いですね。崖の上から染み出した様に縦模様に色が変化しており、そこに走る横線は恐らく人の手によって石が切り出された跡なのでしょう。赤〜黄色の強く鮮やかな色合いは蓄積されたエネルギーを内包しているかのようです。この岩壁の存在感をより重く印象付けるために、ハッキリとした色を使っているのでしょう。しかし、力が強すぎると圧迫感を与えてしまう場合もあります。それを和らげるため、空は絵の具を乗せすぎないようフラットに仕上げられています。青空も切り取られたパズルのピースの様にも見えてきますね。空さえ小さな破片に見える光景が面白いです。
また細かい部分ですが、周りに生い茂る草木の種類もしっかりと観察し、描かれています。隅々まで手を抜かず制作されていますね。手前〜中間は明るく、奥は暗く作ることで、広い画面にもメリハリを与えてくれています。
ちなみに、この石切場から切り出された石材で作られたのが旧高畠鉄道高畠駅舎だそうです。壁の色が石切場と一緒ですね!何万年もの積み重ねで作られたこの岩を、人はツルハシで切り崩していったのですから、両者とも凄まじいパワーです。遠い地球の月日と、人類の発展に思いを馳せてしまう1枚ですね。
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