季節を描き、心を映す

長沼 油彩

大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、長沼さんの油彩作品です。


まずは左のひまわりの作品。ペインティングナイフを用いて厚く塗り重ねられた絵の具の質感が、力強い陽光と大地の熱を感じさせ、画面全体に生命力と躍動感が漲っています。背景には大胆な筆致で様々な色が重ねられ、絵の具の盛り上がりやかすれが、風や光の動きを感じさせるような、抽象的な魅力をもたらしています。

また、花々の構図には物語性が感じられます。画面下部のひまわりたちは、それぞれが異なる方向を向き、風に揺れながら自由に咲いているようにも見えます。その中で、最も背の高いひとつだけが、あたかもその下に咲く花々を見守るように、やさしく視線を落としているのが印象的です。

通常、ひまわりは太陽を見上げる花ですが、このひまわりはまるで太陽ではない”誰か”に向かってその顔を向けているかのようです。まるで年長者が若者たちを見守っているかのように見えてきませんか?毎週お孫さんがご自宅に遊びにいらっしゃると伺いましたが、もしかするとそうした日常の温かな記憶が無意識のうちに作品に反映されているのかもしれませんね。

筆とナイフを自在に使い分け、感情と観察を巧みに織り交ぜた表現は、長沼さんの絵画歴の豊かさを裏付けるものです。ひまわりという身近な題材から、見る人の想像力をかき立てるストーリーを生み出している点に、深い魅力を感じます。


そして右の作品は、岩手県にある小岩井農場の一本桜を描いています。画面中央に佇む満開の桜が、残雪を抱いた山々と澄んだ青空を背景に、堂々と咲き誇っています。自然の雄大な空間を感じさせつつも、その中で桜の存在がしっかりと主張されているのは、絵の具の重ね方に工夫が凝らされているからでしょう。花の部分には、やや厚みを持たせるように絵の具が乗せられており、遠景でありながらしっかりとした質感と存在感を放っています。

空は丁寧なグラデーションで美しい真っ青に仕上げられ、空の青と、手前の木々や地面の緑、そして桜の柔らかなピンクが絶妙なバランスで画面を彩ります。こうした色彩の調和が、春の訪れを鮮やかに印象づけています。

また、遠くにそびえる山肌の描写も魅力的ですね。残雪がまだ多く残る山の陰影や稜線の表現には、長年絵筆を握ってきた長沼さんならではの観察力と描写力が感じられます。実景を丁寧に見つめ、その印象を一つ一つ画面に再構築していく誠実な姿勢が、この作品全体に安定感と深みを与えているように思います。


どちらの作品にも、作者の目と心が反映されています。自然をただ写すのではなく、長年培ってこられた視点と感性をもって、絵の中に「物語」や「記憶」がしっかりと息づいているのでしょう。絵を描くという行為が、その人自身の人生を静かに語る営みであることを、改めて感じさせてくれる2点です。

 

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