記憶を纏う絵画
永瀬 油彩+布・刺繍糸 大竹です。今回ご紹介させていただくのは、永瀬さんのコラージュ作品です。キャンバスの上に油彩と布・刺繍糸が組み合わさっています。 画面にまず強く印象を与えるのは、鮮烈な赤の背景。その中央に描かれる人物のまなざしは静かでありながら、周囲を彩る断片的な布地や糸と呼応し、複雑な感情の揺らぎを漂わせています。使用されている布や刺繍糸は、永瀬さんのかつてのお気に入りの洋服の一部であり、絵の素材であると同時に、かけがえのない個人的な記憶そのものでもあります。 絵画という虚構の世界に、思い出を宿した実際の「モノ」が貼り込まれることで、画面には二重のリアリティが立ち現れます。描かれた人物の表情が誰かを思わせるようでありながらも、布地が持つ物質感によって、個人的な日常や時間の経過が呼び起こされるのです。それはまた、毎年増えていく服に囲まれながらクローゼットをのぞいたときに感じる「過ぎ去った時間への愛着」と「積み重ねられていく日々」の感覚にも重なります。 背景の赤は、そのような断片的な記憶や素材を一つの世界に収める役割を果たし、画面に力強い統一感を与えています。絵画と現実、記憶と現在とを交差させ、見る者に「自分自身の思い出」を呼び覚まさせる魅力を放っているかの様です。